結論から言うと、母の介護でいちばん怖かったのは、オムツになることでした。自分のタイミングでトイレへ行けなくなると、気力まで落ちてしまうと思っていたからです。だから私は、母の足腰と転倒ばかりを見ていました。でも実際に先に崩れたのは、足腰より「食べる力」の方でした。
今回は、母が匂いを失ってから少しずつ食べられなくなった実体験と、そこから見えてきた数字、私が今も悔やんでいる判断についてお話しします。

えっ、オムツより先に心配するべきは「食べること」だったの?
私も、まさかそうなるとは思っていませんでした。
嗅覚と味覚の変化については、こちらの記事でもお話ししています。
※ 嗅覚・味覚の変化は認知症のサイン?60代からの備え
結論:オムツより先に守るべきは「食べる力」だった
守るべきだったのは、足腰と同じくらい「食べる力」でした。匂いを感じにくくなると食べる意欲が落ちます。そこに転倒が重なって、母は急に食べられなくなりました。
母は差し歯が1本あるだけで、ほかはすべて自分の歯でした。噛む力には問題がなかったのに、食べられなくなったのです。
母の変化ー嗅覚を失ってから始まった「食べられない」の連鎖
母は、匂いを失った頃から食が細くなり、痩せ始めました。好物のイカも「ガムみたい」と、ひとくちで終わり。栗のお菓子は喜んでも、ひとくち食べただけで残しました。小さなアイスもメロン味は「味がしない」と嫌がり、食べても1個。気づけば、栄養補助飲料が食事の代わりになっていました。
そして転倒のあと、食欲はみるみるなくなっていきました。
母は食べたことを忘れてしまうことがあり、認知症の症状かと心配していました。食べ過ぎを気にしていた母が、食べられなくなる日が来るとは、思ってもいませんでした。
なぜ嗅覚が落ちると食べられなくなるのか、数字で見てみる
食欲は、脳が匂いや味を感じ取り、消化管からホルモンが分泌されることで刺激されます。加齢で嗅覚(匂いを感じる力)や味覚が落ちると、この最初の刺激が弱まり、食欲も落ちていきます。国立長寿医療研究センターも、味や匂いを感じる力の低下を食欲低下の一因として挙げています。
数字で見ると、これは珍しいことではありませんでした。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 65歳以上で低栄養傾向にある人(女性) | 22.4% |
| 65歳以上で低栄養傾向にある人(男性) | 12.2% |
| 半年で2〜3kg以上の体重減少、またはBMI18.5未満の人が、3年以内に要介護になるリスク(当てはまらない人と比べて) | 1.7倍 |
| 加齢性の嗅覚障害がある人(60歳以上) | 約25% |
| 加齢性の嗅覚障害がある人(80歳以上) | 約50% |
出典:厚生労働省「令和5年国民健康・栄養調査」、健康長寿ネット、ながとも耳鼻咽喉科(各出典は記事末尾にリンクを掲載しています)

なるほど!65歳以上の女性の5人に1人以上が低栄養傾向だなんて、他人事じゃないんだね!
私の失敗ー耳鼻咽喉科を受診しなかった後悔
嗅覚障害は原因によって、治療で戻るものと戻らないものがあります。副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎、風邪の後遺症なら治療で戻る可能性がありますが、加齢が原因の場合は今のところ治療法がありません。
私は、母の足に気を取られていました。足の状態はみるみる悪くなり、手すりやベンチ、椅子を置いて、使いやすくなるよう工夫を重ねました。日によって足の動きも違うので、毎日そちらに目が向き、目に見えない匂いの衰えまでは気が回りませんでした。
見えるリスク(転倒)に気を取られ、見えないリスク(匂いの衰え)を見逃したのです。
そして転倒のあと、母はみるみる食べられなくなりました。あのとき、何を優先すればいいのか、私は判断できませんでした。
私が悔やんでいるのは、たとえ結果が「加齢で治療法なし」だったとしても、耳鼻咽喉科で確認する機会を、自分から逃してしまったことです。
今日からできるチェックリスト
- 体重と食事量を、感覚ではなく数字で記録する(半年で2〜3kg以上減ったら要注意サインです)
- 「前と味が違う」「匂いがしない」という本人の訴えを聞き流さない
- 風邪のあと、2週間以上たっても匂いや味が戻らなければ、早めに耳鼻咽喉科を受診する
- 転倒やケガのあとは、食べる量が落ちていないか観察する
- 好物が食べにくくなったら、温度や柔らかさ、味付けを変えて試してみる
- 「年のせい」で片付けず、原因が治療できるものかどうかだけは確認する

なるほど、「年のせい」で片付けずに、原因を確認しておくことが大事なんだね!
まとめー生きるとは、食事です
母は膝が悪く、痛みの方が心配でした。でも、目に見えない「食べる力」の方が、速いペースで崩れていきました。匂いの変化に気づいたとき、「年のせい」で片付けず、耳鼻咽喉科で原因を確認しておけばよかった。それだけで、その後の選択肢は変わっていたかもしれません。
口から摂る栄養に勝るものはない。母の姿を見て、私はそう思っています。生きるとは、食事です。
次回は、「転倒を防ぎたいのに、薬が転倒を招くかもしれない」という迷いの中で、優先順位を決められなかった私の後悔を書きます。
あわせて読みたい:嗅覚・味覚の変化は認知症のサイン?60代からの備え/頑張らない仕組みづくり・平日食事
参考:

