60代ひとり暮らしのエンディングノートー介護で学んだ”残される側”のリアル

介護・見守り

エンディングノートというと、「まだ早い」「縁起でもない」と感じる方が多いかもしれません。私も少し前まではそうでした。

でも、介護を経験した今は、はっきり言えます。エンディングノートは死の準備ではなく、残される人を「探す介護」から守るための準備だと。

今日は、母の介護でお手上げだった私の体験と、そこから学んで自分のエンディングノートを書き始めた話をします。

母の介護は「探すこと」から始まった

母の介護で、私が困ったこと。それは探すことでした。

介護サービスを受けるにも通帳や後期高齢者医療保険証、介護認定書やマイナンバーカードはどこにあるのか。保険の証書はあるのか。年金の書類は。印鑑は。

何ひとつ、所在が分かりませんでした。見つかると不安なのか私に預けるようになった母。

現金は思いもよらない場所にしまい込まれていて、あとから思わぬところで見つかる。かと思えば、以前引き出しに保管した大事な証書などの書類関係が、尋ねてもありませんでした。母にとって「よく分からない書類」は、不要なものだったようなのです。

手続きのたびに家じゅうを探し、心当たりを推理する。介護そのものより、この「探す介護」「推理する介護」に消耗した、というのが正直なところです。

大事なものは消え、そうでないものは増えていった

「捨てる」と「集める」が逆転する

不思議なことに、家の中では逆のことも起きていました。

使い捨てのマスク。広告の紙、日めくりカレンダーの、破り取った一枚一枚。きれいに洗った食品のプラスチック容器。

そういったものが、大切に集められていくのです。

「これはもう捨てようか」と私が声をかけると、母は怒りました。今思えば、あの声のかけ方は失敗でした。母には母の「大事なもの」の基準があって、それを他人が(娘であっても)否定されるのは、つらいことだったのだと思います。

証書はなくなり、広告の紙は残る。「大事」の基準が、元気だった頃とは入れ替わってしまう。これが、私が介護で目の当たりにした現実でした。

だから「元気なうちに、自分で決めておく」しかない

この経験から学んだことは、シンプルです。

何が大事で、どこにあるのか。それを自分の言葉で残せるのは、元気な今だけだということ。

いつか判断があやふやになってからでは、もう書けません。そして残された人は、私がしたのと同じ「探す介護」をすることになります。

エンディングノートは、死の準備ではありません。「自分の基準を、自分が元気なうちに、自分で残しておく」作業です。そう定義し直したら、書くことへの抵抗がすっと消えました。

母の世代と私の世代では、困りごとの形が違う

ただ、母の経験をそのまま自分に当てはめればいい、というわけでもありませんでした。

母の場合、探すのは紙の書類と、しまい込まれた現金でした。母はスマホを持ってはいたものの操作を嫌がり、連絡は固定電話だけ。デジタルのものは、ほとんど何も残っていません。

でも、私は違います。ネット銀行の口座があり、スマホ決済を使い、いくつかのサブスクを契約しています。ブログだって書いています。

つまり、私の場合に残される人が困るのは「物の捜索」ではなく、「パスワードの壁」です。実際、最近の調査でも、デジタル終活の不安の第1位は「パスワードが分からず家族が困ること」だそうです。

母のときは、物を探しました。私の場合は、誰も私のスマホを開けられない。

同じ「お手上げ」でも、形が違うのです。だから私のエンディングノートには、母の世代にはなかった「デジタルのページ」が必要でした。

私が書き始めたエンディングノート

ここからは、私が実際にやったこと・やっていることです。完璧を目指すと止まってしまうので、「まずここから」の順番で書きます。

まず書いたのは「お金と契約の一覧」

最初に作ったのは、財産目録のような大げさなものではなく、ただの一覧表です。

  • 銀行口座(どの銀行に口座があるか)
  • 保険(どの会社の何の保険か)
  • 年金(基礎年金番号の控えの場所)
  • 毎月の固定費とサブスク(何をどこと契約しているか)

ポイントは、金額は書かなくていいということ。残高は日々変わりますし、書くのも気が重い。「どこに、何があるか」さえ分かれば、残された人は手続きができます。母のとき、私が欲しかったのはまさにこの一覧でした。

書類の置き場所を「一箇所」に決めた

次にやったのは、書く作業ではなく、物理的な片づけです。

保険証書、年金関係、家の契約書類。散らばっていたものを一つのファイルボックスにまとめて、すぐ手に取れない置き場所を決めました。エンディングノートには「大事な書類はここにあります」と一行書くだけです。

母の家で私が何日もかけて探したものが、この箱を開ければ全部ある。そう思うと、片づけというより「未来の誰かへの申し送り」をしている気持ちになりました。

スマホとパスワードをどう残すか

そして、私の世代ならではの課題、スマホです。

パスワードを紙に書いて渡しておく、という方法もありますが、生きている間に見られてしまう不安がありますし、変更のたびに書き直すのも現実的ではありません。

調べてみると、iPhoneには「故人アカウント管理連絡先」というAppleの公式機能があることが分かりました。あらかじめ信頼できる人を登録しておくと、自分が亡くなった後に、その人が「アクセスキー」と死亡を証明する公的書類を提出して、iCloud上のデータ(写真など)にアクセスできる仕組みです。

安心なのは、生きている間は相手からアクセスされないこと。パスワードを教えるのとは違って、今のプライバシーは守られます。

設定は「設定」アプリから、自分の名前 → 「サインインとセキュリティ」→「故人アカウント管理連絡先」と進むだけ。実際にやってみたら、数分で終わりました。

いくつか注意点もあります。

  • 相手に渡る「アクセスキー」が申請に必須。紛失すると手続きできないので、紙でも保管してもらうのがおすすめ
  • アクセスできるのはiCloud上のデータで、iPhone本体のパスコードはAppleでも解除できない(端末そのものとデータの引き継ぎは別物)
  • 登録した相手を後から削除すると、渡したアクセスキーは無効になる

ちなみにAndroidの方は、Googleに「非アクティブアカウント管理」という似た仕組みがあります。

離れて暮らす家族に、「どう渡すか」まで考える

私には、離れて暮らす子どもがいます。だからノートを渡す相手には困らない――そう思われるかもしれません。

でも、同居していれば「引き出しに入れてあるからね」で済む話が、離れて暮らしているとそうはいきません。いざというとき、子どもは遠くから駆けつけて、母のときの私と同じように、勝手の分からない家の中を探すことになります。

だから私がやることは、二つです。ノートと大事な書類の置き場所を、元気なうちに言葉で伝えておくこと。そして、先ほどの故人アカウント管理連絡先に子どもを登録しておくこと。離れているからこそ、「探させない準備」の意味が大きいのだと思います。

一方で、読者の中には、頼れる家族が近くにいない方もいらっしゃると思います。選択肢として、民間の「終身サポート事業(身元保証サービス)」がありますが、契約トラブルへの注意喚起も出ている分野なので、検討するなら慎重に。また、頼れる身寄りのない人を対象に、入院時の手続きや死後の事務を無料または低額で支える公的な仕組みも、2027年度から始まる予定です(2026年7月時点の情報です)。この新しい制度については、詳細が固まってきたら別の記事で詳しく書きたいと思っています。

もうひとつ触れておきたいのが、「成年後見制度」です。認知症などで判断能力が低下した後の、財産管理や契約を支える国の制度です。エンディングノートに法的な力はないので、その先を支える受け皿がこの制度になります。中でも「任意後見」は、元気なうちに「将来はこの人に支援を頼みたい」と公正証書で決めておく仕組みで、まさにこの記事のテーマ「元気なうちに自分で決めておく」の法律版です。この成年後見制度も、2026年4月に大きな見直しの改正案が閣議決定され、「必要な期間だけ使える」身近な制度へ変わっていく見込みです(施行は2028年頃・2026年7月時点の情報です)。

渡す相手が家族でも、そうでなくても。「渡せるものを用意しておく」ことは、今日からできます。

おわりに  助けてくれる人は、ちゃんといる

ひとつ書き添えておきたいことがあります。母の介護で、デイサービスの職員のみなさんには、本当にお世話になりました。家族だけでは行き詰まっていたことが、プロの手を借りることで、何度も救われました。介護のプロに支えられた体験は、訪問介護について書いたこちらの記事でも詳しくお話ししています。

だからエンディングノートも、「人に迷惑をかけないため」と気負って書くものではないと思うのです。いつか私を助けてくれる誰かが、迷わず動けるように。探させない、推理させない。それだけで十分な理由です。私は少しずつ、書き進めていきます。